タイ総選挙と前進党ピター氏の現在地

タイ総選挙と前進党ピター氏の現在地

2023年5月14日に行われたタイ総選挙で、事前の予想を覆し152議席を獲得したピター・リムジャルンラット氏(紹介ページ ピター・リムジャルンラットって誰? をご覧ください)率いる前進党が第1党となりました。しかしその後、当初連立予定だったタイ貢献党との駆け引きや軍事政権側からの圧力などにより、前進党は国会議長席を譲り、また、首相の席も譲る事になりました。
ここでは選挙後に起こったキーとなる出来事と共にピター氏本人のメッセージ日本語訳を紹介し、彼が何を見据え今を生きているのかを読み解いていきたいと思います。(2024/02/18 最終更新)

日本語訳については私が個人的にタイ語から日本語へ翻訳したものですので細かい部分に齟齬などある可能性がある旨ご了承くだい。
無断転載は固くお断りいたします。翻訳等のご相談はお問い合わせフォームよりご連絡ください。
また、ピター氏を応援する個人的な目線から纏めたページであり、政治的議論は一切致しません。

5月22日 8党連立MOU締結

獲得議席数が前進党の次に多かった第2党の「タイ貢献党」含む8党での連立政権樹立を目指し、2014年クーデターからちょうど9年後の5月22日に連立MOUを締結。各党代表者で調整し、首相候補をピター氏に一本化することと、各種政策の取りまとめをした。

首相指名選挙に臨むにあたってのピター氏メッセージ

上院下院議員全員の仕事は、投票した72%が支持する新政府を実現し、主権者である国民の声を反映した世界基準の“普通の民主主義“を取り戻すこと。国民の自由と権利を尊重し、公平公正な法秩序の下、多様な意見に耳を傾け、国民に信頼される連立政府を樹立しよう。
ピター個人や前進党を選ぶ訳ではなく、議員が国民代表として権利を行使しタイを成功に導く、あるべき姿を取り戻せる、チャンスである。
国民の皆さん。異なる意見、様々な希望に耳を傾け、全ての人の為の首相になる準備ができています。連立政権とピターに国を任せて下さい。

7月13日 第1回首相指名選挙

民主派連立8党の議席数は312で総議席数500の下院では過半数を超えたものの、首班指名選挙は上院(総議席数250)を併せた合計750人の投票により実施されるため、首相になるためには上院議員の票数が必要となる。上院議員は軍事政権側の任命で選ばれており、改革を掲げる前進党を含む連立政党側の首相候補(ピター氏)に投票することは望めなかった。
最終的な得票数は324票で過半数は超えず不成立、2回目指名選挙を7月19日に行う事になった。
連立8党での話し合いを経て、第2回首相指名選挙もピター氏を首相候補とすることが決まった

メディア株保有など各方面からの圧力

首相指名選挙にあたり、各方面から総力をあげての妨害工作とも受け取れる訴えが選挙管理委員会へ出される。主なものは、国会議員が保有してはいけないメディア株(iTV株)をピター氏が保有している・前進党が選挙活動中に掲げた改革案が112条(不敬罪)に違反している、など。

7月19日 第2回首相指名選挙

7月19日当日、憲法裁判所がメディア株保有に関する提訴を受けてピター氏の議員資格を一時停止させた。また、軍事政権側が議会規則を挙げ、一度首相に選ばれなかった者は再度立候補できないとして選挙そのものが中止に

今日、保守主義の面々全てが112条改正を掲げる我々には政権運営を認めないと明らかになりました。しかし私が首相になれないことで、国を変えたいという私たちの希望が尽きた訳ではありません。
一番大切なことは、私が首相になる事ではありません。政権を変え、旧政権の権力継承を止めるという国民の目標に沿って新政権を樹立する事です。

ピターが首相になるならない、前進党が政権中枢を担う担わないは重要ではありません。
一番大切なこと、選挙で示された2700万の国民の声にこそ意味があります。

前進党は、第2政党であるタイ貢献党が政権樹立することを支持する準備があります。
私たちが固く手を握っている限り、旧権力側が権力継承できる日はありません。

国民の皆さん、希望を捨てないでください。今日のタイはもう遠くまで歩みを進め、後戻りすることはありません。彼らにタイを過去へ後戻りさせることは、もうありません。

3回目首相選出選挙までのピター氏を取り巻く動き

7月26日にCNNインタビューを受けた際のピター氏のコメント。

前進党は112条改正案やその他の改革案が政権樹立の妨げになっていると見られることについては遺憾に思っていない。iTV株所有の件を説明する権利を得られればまだ首相になるチャンスもあると信じている。
現状に抗議する人たちの要求は、選挙で勝ったものが誰であれ首相になるべきである、という事。しかしタイは選挙で選ばれた下院議員と軍事政権下で任命された上院議員が対峙する状況になっている。

iTV株保有の件は、首相になるのを妨害するプロセス。実際は父の遺産を管理する立場で直接の株所有者ではなく、またiTVは17年前にメディア活動を止めている。自分にとって何の政治的有用性もない。
首相になる可能性は未だあるが、iTV株について説明する権利すら得られておらず、もし憲法裁判所が説明させてくれるのならば、この株は遺産管理人として所有している旨説明し、その説明で様々な資格を取り戻せるだろう。

(不敬罪改正を掲げることが足枷になっている点を問われ)
この政策を遺憾に思っていない。全タイ人の目標はConstitutional Monarchy(立憲君主制)の維持。例えそうだとしても、様々な人の維持の目標はそれぞれ違う。
不敬罪は国際基準に沿って改正すべき。政治的敵対者が君主制を政治利用することや、112条を利用して政敵を滅ぼすのは許されない。
前進党は立憲君主制維持を掲げ、君主制は政治を超越したものとし、政争の具としない。これは初めて持ち上がった話でなく、過去を振り返ると10年毎に君主制が政治的利用されている事件が起きている。

(その他の政策の為、政党取り潰しの動きがあるが?)
前進党は独占の減少、地方分権、軍の政界追放の立場に立っており、これらは改革しなければならない。軍改革をし専門性を高め現代の課題に対応できるようにする。経済の構造改革にも及ぶ独占減少も同様だ。地方分権に役立つような公務員システムの改良も。バンコクだけがタイではない。
これらの政策は反対勢力の抵抗が強いことが想像に難くないが、時間が十分にあれば説明して納得させ、世界の様々な課題の只中でタイを前進させられると信じている。

私と前進党は未だ辿り着いていなくても必ず勝利すると確信している。
そして自分が首相になるのが目標ではなく、軍事独裁政権の悪循環を止める為に第2政党であるタイ貢献党が政権樹立することを支持する。また、過去に抗議活動へ参加した人たちも平和的に意思表示をする権利がある。これは民主主義国全てにおいて重要である。

8月22日 第3回首相指名選挙

第2政党のタイ貢献党はここまでの間に、前進党含む8党連立政権MOUを破棄し、新たに親軍派政党を含む11党で連合を組んだ。上院議員からは”前進党抜きならタイ貢献党の首相候補に投票する”という声も聞かれており、この11党の連立政党から立候補したセーター氏が首相指名選挙に当選、30人目のタイ首相が誕生した。
そして前進党は下院での議席が一番多い、野党となった。

新未来党時代に私たちが政治活動を開始して以来この何年もの間に、私が前進党の党首となり、2566年5月14日の選挙を迎え、私たちは一生懸命働いてきました。全ての家の扉をノックし、全ての人と会話し、タイ全土を訪れ、討論の舞台に上がり、メディアのインタビューを受け、政策を形にしてきました。

私たちの懸命な働きと”明確 誠実 率直”さが一番多くの国民の信頼を得て1400万票にも届き、下院の議員数が一番多い政党になりました。

しかし前進党側には誰もいません・・・国民以外。

この3ヶ月間、全ての政治的組織が団結して前進党のスイッチを止め、民意に逆らう異種混合政府を樹立するに至りました。

最初のボタンを掛け違えると、この混合政府が社会の変化を起こす日が来ることはありません。国民に豊かな暮らしをさせることやあらゆる尊厳を持たせることであろうと。

失意、既存の政治や統治への国民の信頼低下のただ中で。

私 ピター・リムジャルンラットが率いている前進党は、新しい力の代表に、希望に、国民の一番の拠りどころになります。時代に合った働きで能率高く、権力者の仕事を検査し、進歩的な法律の推進やタイ社会の変化を起こす議題の討論を含め、国の重要な問題について解決方法を提起します。

私たちは国民が信頼できる政治機関になります。国民の皆さんの最大利益になるよう精一杯働き、国民の皆さんが寄せてくれた信頼を決して裏切る事はありません。

前進党流の政治は飛び抜けて素晴らしい政治ではありません。私たちはただ、タイ政治において 誠実、率直、約束を守ること、を普通な事としたいだけです。

今日これ以降、友人兄弟全てのみなさん、もう一度前進党と共に長い旅へご一緒しませんか。 共に活動し、共に働き、共に変化を起こしましょう。

共に示しましょう 前進党流の政治が国民の切望するものであることを
共に示しましょう 前進党流の政治が可能であることを
共に示しましょう 前進党流の政治がタイに揺るぎなく根付くことを
共に示しましょう この国の最高権力者が国民であることを

9月15日 ピター氏が前進党党首を退き最高顧問へ

現行憲法では、野党リーダーは国会議員であることが決められており、現在ピター氏は国会議員としての職務停止命令を受けたまま。このままだと国会での様々な取り組みに支障が出るため、党首を退任し最高顧問になった

得票第一位の ”野党” として前進党が国民の為に働いていかねばならないのは明らかですが、現行の憲法が ”野党リーダー” は野党第一党党首の国会議員である必要があると定めており、また、現在私は未だ憲法裁判所の命令の下、国会議員の職務停止中です。ですから私は国会に入り務めることができておらず、間もなく野党リーダーとしての立場を維持できなくなるでしょう。

同時に、私は前進党執行委員会・議員たちと相談し、”野党リーダー” の役割は国会システムにおいて非常に重要であること、議会における主要野党政党である前進党の党首が負って然るべき役割であることを確認しました。
”野党リーダー” は、政府のバランスを検査し政府の政策からこぼれ落ちている変化の議題を推し進めるために議会における野党の責務の方向を指揮するという、言わば船首のようなものです。

従って、私の代わりに党首に就任し国会で ”野党リーダー” の職務を遂行できる国会議員を選んでもらうため、私は今をもって前進党党首を辞任する決断を下しました。

全ての人にご理解を頂きたいのは、私の地位がいかなるものであろうと、私はどこへも行きません。引き続き前進党と国民の皆さんと共に、私たちが切望している変化の議題を推し進めるために、力の限り全能力をかけて働きます。

また、9月24日の党大会では今後の活動方針”3ข”を提示した。

〔 前進党は国民の側に立つ野党になり、共に私たちのゴールに辿り着くまで勝利と経験を積み重ねていきます 〕

前進党の3年と185日の全て、これは私が忘れることのない旅路でした。そしてみんなと共にして来たことに誇りを持っています。それは風が吹く中で火を灯したことです。風の中で灯した先には、みんなで助け合い、決して火を消さないでください。

前進党とは、個人のことではありません。私たちは人々であり旅路であるのです。誰か一人がいなくても、大切な芯と心があるのです。それは、最高権力は国民のものであるべきということなのです。私たちは希望の、可能性の、信頼の源となるせせらぎです。ですから、チャイタワット氏(前進党新党首)は間違いなく民主主義側の真の指導者です。

前進党は理想と夢で結びついた人々であり、水のようなものです。私たちは絶え間なく流れゆく水流です。障害があったとしても流れていく事ができます。水流は土の近くにあります。まるで国民の近くにある私たちように、国民に謙虚であるという私たちの信念のように。

しかし、大きく圧力をかけられた時には、去る5月14日の選挙のように水流は全ての要塞を破壊できます。私たち全員が水流のようにあり、どのような入れ物の中にあっても同じ希望と目標を持ち続けてください。

今後の私たちの政治活動では、野党にならざるを得ないとしても、一般的な野党のあり方とは違う能動的野党になります。前進党は政権打倒のみに専心するのではなく、国民の側にある野党になり、最高の政府・国民が思いを寄せる政府になるまで勝利と経験を積み重ねていきます。

これからの私たちの進む方向は、下記の”3ข”です。

🍊戦う🍊前進党は今後4年に行われる全選挙の戦いに備えます。2024-25年の2つの地方選、2026年のバンコク都知事選、2027年総選挙、の4つの大きな選挙があります。どの選挙においてもタイ全土で前進党と必ず会えるでしょう。

🍊動く🍊小選挙区議員、比例代表議員、地方部、ส้มจี๊ด(somjeed enterprise)、未来政策センターといった全ての前進党の組織が一丸となって活動し、国民のためにさまざまな問題解決を推し進め、さまざまな議案で変化を推し進めていきます。

🍊拡大🍊いつの日かタイ政治において党員数が最多の政党になるよう、前進党は1か月1万人の党員増員を目指します。

”もうすぐ、私たちが一緒に見た夢が、共に誇れる現実のものとなるでしょう。私たちは共に、彼らの作ったルールの下で、誰も私たちが勝つと思わなかった時に、最も多くの国民が選挙で権利の行使をし、勝利を勝ち取ったのです。
みなさん、失望をエネルギーに変えてください。そして共に私たちの勝利のゴールに辿り着くまで押し続けてください”

10月25日 米TIME誌次世代の100人に選ばれ渡米

9月13日に米TIME誌次世代の100人に選ばれたピター氏は、10月25日ニューヨークで開かれたTIME誌主催のガラディナーに出席

先の選挙において誇りに思える事、私は現象と呼んでいます。
それは私一人のことではなく、変化を欲する声を送ってくれたタイ国民のことです。

2566年5月14日は、一番多くの人が権利を行使し投票した選挙でした。期日前投票が一番多かった選挙でした。タイ全土と90カ国以上の世界中のタイ人が参加する選挙でした。期間が短かかった、また選管のサイトがダウンしたにも関わらず、大勢の人々が権利を行使しました。

今年 ミラクル オブ タイランド のような事になったのは、タイ国内の76%以上の人が投票したことが形になったものです。海外に暮らすタイ人については、登録者は10万人超、投票者が9万人超。これは長期間タイ国外で暮らしている人において権利を行使したのが86−87%だといえます。これらは簡単に起こるものではありません。タイを忘れていない海外在住タイ人を含め、全てのタイ人へ、名誉と誇りの賞を捧げます。

そのような訳で、今回の私のアメリカ渡航はTIME誌の催しに参加するだけではなく、先の選挙で投票してくれた異国にいるタイ国民のみなさんに感謝を伝える旅にしたく、また異国の地にいるタイ人の問題を解決するため会話し聞き取る時間を持ちたいと思います。そして更に、海外の民間部門や専門家と会談を続け、議論や経験を共有しタイを発展させる方向性を探ります。
タイ人が平等な権利を持てるようになるため、良い質の生活ができ世界に遅れることなく大きく進んで行けるために。

この他アメリカ滞在中に、アメリカ在住タイ人と対話会・ 母校のハーバード大学/マサチューセッツ工科大で講義なども行なった。

現在のピター氏

国会議員としての活動ができないものの、各国関係者との面談、タイ国内の各地で演説会や各種イベントでのトーク、番組出演などを通じて精力的に活動しています。また、訪米の後は韓国を訪問し、オーストラリア方面にも今後行くかもしれないと言及したこともあるので、是非日本へも!来ていただきたいところです。

2024年1月24日憲法裁判所判決により、ピター氏のiTV株保有については無罪となり翌25日から国会復帰。しかし翌週の憲法裁判所判決により、前進党が掲げた112条改正案が国家転覆を意図しているとされ、ピター氏の政治生命と前進党解党の危機の最中にあります。(2024/02/18 追記)

タイの政治はタイ人のものであり、私は完全なる外野ではありますが、引き続きピター氏が今何を考え、何を目指してどう生き抜いていくのかを追っていきたいと思います
一連の彼の発言から分かる通り、言葉選びのセンス、人心をつかむ技術、社交力・・・素晴らしい能力を兼ね備えた魅力的な人物だと感じています。
ご本人的には、ゆくゆくはタイ人初の国連事務総長も目指してみたい、とも思っているようです。

必勝だるまを届けました

8月8日にランカムヘンにある前進党事務所に直接赴き、特注の必勝だるまをお渡しして参りました
その前後から私のInstagramの投稿が前進党公式アカウントにリポストされるようになり、最終的には!なんと!!

ピター氏ご本人からリポストされることも増えてきました!!

そんなことってある!?
生きてて良かったです😭🧡

必勝だるまは、事務所の方にお渡ししました

おまけ

MOU締結会見時にいきなり右手薬指に指輪をして登場して界隈をざわつかせたピター氏(ざわついたの私だけ?)。ご本人曰く、お守りの指輪(ウェーンプラ)だそうですが、首相選出後はもう着けていません。

ピター氏の恋人なのでは!?とずっと噂されていた女優のエフさんが、なんと、年下イケメン俳優ノンクンさんとお付き合いする事になったご様子。

ピター氏はプライベートを突っ込まれる度に相変わらず”とにかく娘の世話と仕事でそんな時間はない。だけど、愛の扉は閉じてないと語っています。
扉!!!開いてるの!?!?
😂

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